それは、春が近い頃の夜だった。
 潜水艇ジェーンでは今日一日の勤務を終え、眠りについている者がほとんどの頃である。
 
 
 
 
 
 そんな中リサは眠れなかった。原因はやはり・・・・
 「ぐおおおおおぉぉ・・・・・・・」 ミィレスのイビキである。
 (・・・・・・・・・ミィレス。)
 ここ最近リサはろくに眠れずにいた。おかげで睡眠不足で何時倒れるかわからない状態だ。 
今日こそは絶対にどうしても寝たかった。
 (ここじゃ絶対寝られないわ。他で寝られるところを探さなきゃ・・・・・)
そうしてミィレスを起こさぬように慎重に部屋を出るのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 かれこれ4時間・・・・・部屋を出たのは正解だったが、落ち着いて眠れる場所が無かったのである。
まず、最初に双子、彼らはすかさずOKを出してくれたが、こちらの寝相も恐ろしいほどのものだったのだ。アイは歯ぎしりを・・・・・ユウは何を言っているのかわからないが、寝言を・・・・・・・・・・・・・・・・・・
双子でW攻撃を仕掛けてきたのである。あえなく断念。
 次にシド、彼も即OKだったが、何やら邪な気を感知したので丁重に断ることにした。
 ナーヴは・・・・・・・・・・・・ご想像におまかせしよう。 
 
 
 そうやって色んな場所に行ってみたものの自分が眠れそうな場所が見つからなかったのだ。
終いには
(こんな風に色好みしているのが間違いだったのかしら・・・・?)
と、まで思えてきた。 
 
 次第に歩いて行くうちに目も覚めてきた。歩くのも疲れてきた頃・・・・・・・・・・
ふと周りを見ると左側にいつも使っている食堂があった。
(・・・・・・・・気付かないうちに同じ所をグルグルまわっていたんだわ・・・・・・・。)
虚ろにそう思いつつも食堂に入って行った。
思った通り誰もいない。リサはカウンター席に座った。
それと同時に何となく喉の乾きを感じた。
(無理も無いかな・・・・・・・・)
 ということで何かないかリサは探してみることにした。
すると一本のワイン瓶が出てきた。ラベルには 「POMEGRANATE  WINE」 と書かれていた。
どうやらザクロ酒らしい。後の文字は異界文字でわからなかった。 
(お酒・・・・・・・)
そういえば随分飲んでいなかった。最後に飲んだのは何時だったのかさえ記憶にない。
(久しぶりに・・・・・・・・・飲んでみようかな・・・・・・・・。)
 
 
 再び席に戻ってから瓶のコルクを抜いた。グラス(と言うよりは普通にあるガラスコップ)に注ぐとワイン独特の匂いがした。
(いい匂い・・・・・・・・。)
一口飲む。久しぶりに飲んだワインはなんだか新鮮な感じがした。
 と、
後ろで誰かの足音がした。リサはすかさず振り向いた。
 足音の正体を見るなり、彼女は少し驚いた。
「・・・・・・・風?」
何故、風がこんな夜中にしかも食堂に来る?
「どうしたの?こんな夜中に?」
「・・・・・・・・・・。」いつもの無言。
「いいわ。答えてくれなくても。」リサはもう慣れてしまった。慣れすぎてしまっているせいか、今ではこういう風にさえ思っている。“これも一応コミュニケーションではないか?”と。
なぜなら風は、いつも答えてはくれないが、ちゃんと聞いている・・・・・・・・・。そんな気がしてならない。
 
しばらくだまっていると、風が何かをじっと見ているのに気が付いた。
視線の先をたどってみると、そこにはリサがさっきまで飲んでいたワインとグラスがあった。
「え?・・・・・ああ、ちょっと飲みたくなっちゃったのよ。あなたも飲む?」
「・・・・・・・・・・。」やはり沈黙。 
「そう・・・・・。」 
そうしてまただまってしまった。が、風が突然動き始めた。どうやら席に座るらしい。しかも、リサから3席ぐらいむこうの席だった。
(これは・・・・・・・・・)もしかして、“酒の相手はしないが、愚痴なら聞いてやるぞ。”と言う事なのだろうか?リサはオロオロした。自分に気を使っているのだろうか?
 
しかし、そんな考えも次の言葉で崩される事となる。
「・・・・・・・・・・酒。」
「え?・・あ!!・・・・・・・・・・・はい。」
なんだか無駄に心配したりした自分がバカみたいに思えてきた。
(私ったら・・・・・・・・・・。ほんとにバカなんだから・・・・。)
最初から風は自分を相手にする気などなかったのだ。そうリサは少なくとも思った。 
この時のリサは思えば酒のせいかしばしば感傷的だったのだろう・・・・・・・。
「はい。お酒。あなたの口に合うかわからないけど・・・・・・。」
そう言って赤い液体が入ったグラスを渡した。
それから自分の席に着いてから深いため息をついた。
「・・・・・・・あなたがうらやましいわ。」
ちらっと隣を見ると風がちょうどグラスをじっと見つめていた。
こちらを気にする様子もまったく無いと言っていいほどである。
「何も気にせず、一人で生きていけるところが・・・・・・・・・・・・うらやましい。」
と、リサも飲んでいたグラスを見つめ始めた。
「私には出来ないわ・・・・・。だから、あなたがうらやましい。」
何だか自分だけが一方的に話している気はしたが、かまわなかった。
どうせ、むこうもこっちを気にしていないのだから・・・・・・・・・。
「でもね・・・・・・。時々そういうところが怖いのよ・・・・・・・・・・・。そんな事してたら時々壊れそうにならない?そうでなくても・・・・・・・・私なら壊れそうだわ。・・・・・・ううん、事実、今だって壊れかけてる・・・・・。あなたの事が心配なの・・・・・・・・。こんな事言うと嫌がると思うけど・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・私とあなたってなんだか似ている気がするの。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。」
そう苦笑いをしながら風の方を見た。が、肝心の風はうずくまっていてどうやら眠っているらしい・・・・・。グラスの中身はカラだった・・・・・・・。
「・・・・・・・お酒・・・・・・弱かったの?」リサは少し小さい声で笑ってしまった。ひとしきり笑った。
それから席を立って風の隣にある席に座った。
「あなたは・・・・・・・いつもそうね・・・・・・。」
・・・・・・・・手を赤い髪に近づけてそっと触ってみた。こうして見るといつもの彼には見えなかった。
・・・・・・・・・・・・・そうこうしているうちに眠気が襲ってきた。
(眠いな・・・・・・・。でも、ここで眠っちゃだめ・・・・・・・。)
しかしそう思った時には遅かった。リサは眠ってしまった。
 
 
 
 
 
 
しばらく経った・・・・・・・・・。何かが動いた・・・・・・。風だ。
 実は眠っていなかったのである。いわゆる狸寝入りだ。もちろんリサの話も聞いていた。
「・・・・・・・・。」
風はリサを見ていた。ちょうど彼女は顔をこちらにむけて眠っている状態だった・・・・・・・。相当疲れていたらしい。
なんとなくひどく傷ついたように思えた。
とりあえずこのままでは風邪をひいてしまうのでマントを彼女を被せた。
それからまるでいたわるように優しくリサの頭を撫でた。
「・・・・・・・・・・。」
そして彼女の唇に自分を近づけた。
それから彼は部屋を出ていった。
 
 
きっと彼にはどう答えたらいいのかわからなかったのだろう・・・・・・。
 
それからしばらくしてリサも起きた。顔を真っ赤にして・・・・。
多分彼女も起きていたのだろう・・・・・。同罪というべきか?
「・・・・・・・・。」手でさっきまで触れていたのは本当だったのだろうか?
確かめるように唇に手を当ててみた。まだ暖かい気がする・・・・。
「恥ずかし・・・・・・・。」
 
 
それはもうすぐ春になる頃だった・・・・・・・・・・。

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